—あなたのお仕事について具体的に教えてください。
私は近畿大学病院で消化器内科の医師として働いています。専門は胆膵(たんすい)疾患です。胆膵とは胆管や胆嚢、膵臓の領域で、胆石や膵がんといった疾患に特化してみています。胆膵の病気を診断から抗がん剤治療まで、トータルで診ているという状況ですね。
—この仕事を始めたきっかけを教えてください。
元々、私の祖父・父が医師だったことから、幼い頃から医療が身近にありました。さらに誰かの役に立つこと、助けることができる…そういう仕事に就きたいと考えていたので、医師の道へ進みました。
胆膵を専門にしている理由は、私のボスだった北野雅之教授(現・和歌山県立医科大学教授)から、膵臓の研究に関する面白さを教わったことがきっかけです。診断した患者さんから喜んでいただいたことも大きく、何より膵臓は白黒のエコー写真でも画像がすごくきれいで。非常に魅力的に感じ、そこから膵臓の世界へどっぷりと浸かっていますね。
診断の流れとしてはまず、腹部エコーやCT検査、MRIである程度腫瘍の場所を確認します。ただ、その写真だけでは確定的な診断はできませんので、細胞そのものが必要となります。私が主としている超音波内視鏡(EUS)装置を用いての診断は、小さな病気の発見にも強く、細胞採取の検査もできるものです。
膵臓の腫瘍にはいろんなタイプがありますが、ソナゾイド(超音波診断用造影剤)を注入するまで、どういう腫瘍なのか分かりません。注入するとバブルがふわふわ入って光ったり、予想と違う動きを見せるなど…毎回新たな発見があり、研究のしがいがありますね。
—あなたの強みは何ですか?
自分をどうやって伸ばしていくか?と考えた時に、元リクルートの藤原和博(※)さんの「3本柱が大事」というお話が響いて。例えばオリンピックの選手は、100万人に1人の逸材なわけでしょう。当然、誰もが1/100万のスキルなんて持っていないじゃないですか。でも藤原さんは「1/100万のスキルは作ることができる」と仰っていて。その方法とは、まず1/100のスキル=100人に1人のスキルを作ることなんです。それを3つ掛け合わせれば=100×100×100で1/100万のスキルとすることができるという。
これを自分に当てはめてみました。まず①EUSを扱えること、後述しますが②教育への思い、③情報発信。私はInstagramやTwitter、ブログを使ってEUSの情報をわかりやすく発信しています。EUSを使える人間の中で、実際に教育へ力を入れ、情報発信しているのはおそらく私だけでしょう。この3本柱、3つの掛け算から成るスキルが私の強みだと思います。
※リクルートでトップセールスを記録した営業成績を誇り、独立後は教育改革に注力。東京都初の中学校の民間人校長を務める。
—あなたの使命とは何ですか?
私はEUSへ非常に可能性を感じていること、と同時に前述したように教育への強い思いを持っています。EUSとその教育は使命…というより、私に課せられたことと言うべきでしょうか。EUSへの研究は人一倍行っていますし、自分にはすごくあってると思います。
具体的な教育の方法としては、ひとつの検査が終わるたびにしっかりフィードバックすることを重視しています。コメントや絵を交えながら、この点をこうした方が良かった/ここが良かったなど、全てスコアを付けたアドバイスを書いて渡していますね。
そんな風に時間を作って指導するなど、後進の教育には大切なこと。それができるタイプ/できないタイプがそれぞれいると思いますが、私は前者です。いろいろな教育システムも作りましたし、すごく性に合っていて。実際、後輩もどんどん技術力が上がり、周囲からも評価をいただくなど、私の自信にもつながりましたし、これは人生のミッションだぞ、と。
そもそも、教育に力を入れていて思うことは、結果的に自分が一番上手くなるということです。ある問題点があったとして、これをAというアプローチで教えるとする。でも違う状況で同じ問題に当たったとき、Bのアプローチがいい場合、さらに言えばCのアプローチがいい場合もあるんですよね。そうやって多角的なアドバイスができれば、私自身、問題解決の際にたくさんのアプローチを持てるようになるので、どんどんレベルが上がっていく感じがありますね。教育で最も得をしているのは教育者の方だと感じています。
他の部位と比べて、膵がんには何となく悪いイメージがあるのではないでしょうか。いわゆる診断から5年後に生存する確率を示す、5年生存率で見てみましょう。乳がんの5年生存率は90%、前立腺がんは100%、でも膵がんは10%なんです。世界でも最も悪いがんです。この状況をどうにかしないと…という思いもあり、膵臓分野でのEUSと教育を人生のミッションとし、世界に貢献したいと考えています。
教育に関しては心がけていることは、自分自身への学びを欠かさないことです。リーダーシップに関する書籍やオーディオブックなども多用しながら、現場に応用できるよう考えています。
例えばアドラー心理学でも言われることですが、大切なのは“相手に関心を持つ”ことではなく、“相手の関心に関心を持つ”というアイデア。これは私も大事にしているポイントです。私は教育が好きということもあって、とにかく話がしたいタイプなのですが(笑)、グッとこらえて後輩の話を聞くようにしています。相手が何を悩んでるのか、相手の話をしっかり捉えるようにしていますね。
よく見ているYouTubeの番組で、鴨頭嘉人(※)さんのお話も参考にしています。彼の提唱する“聴き力”が大事だなと思いますね。心の中の言葉、言えない言葉を聴こうとする…そういうトレーニングは意識しています。
※YouTubeで熱い講演の模様をアップし、登録者数100万人以上を誇る実業家。特に、19歳で始めたマクドナルドのアルバイトから店長へと進み、のちにお客様満足度/従業員満足度/セールス伸び率においてそれぞれ日本一を獲得し、最優秀店長で表彰されるなど、数々の功績を残す。
—最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。
チームとしては、近畿大学病院を日本でNO.1の胆膵に関する施設にすることです。
私個人としては、自分が生まれてきて、多くの人の役に立ったという証しを残すこと。私が持つEUSの技術をより多くの方々、それは日本のみならずさまざまな国の人に伝えていきたいですね。世界の膵がんで悩んでいる方々に貢献できるようにと考えています。
その中でも、家族との時間を大切にし、両立させることも夢のひとつです。家族、特に妻にはたくさんサポートしてもらっています。足元がグラグラだとどこかで必ず転ぶときがくる。だからサポートしてくれる家族への感謝は尽きません。褒めて褒めて、褒め尽くすことが大事。おいしいご飯を、綺麗な部屋にしてくれてありがとう…いつもしてもらってることに対して、きちんと感謝の言葉を伝えることが大切です。
今後、これまで以上にAIが発達していくことで、ルーチンワークや診断学は機械に取って代わられるかもしれません。ロボットでもある程度の医学的な判断を行い、ある程度の患者様への支援ができるようになる…そんな未来もあるかもしれません。例えば、体の状態を判断して投薬する、体の動きをサポートするというような、肉体的な満足感や支援はできるようになるかもしれません。しかし、患者様のそれまでの人生や性格、こだわりを知ることで、それぞれに合ったベストな支援は異なることでしょう。
消化器の領域で言うと、自分の将来のことや家族のことが心配で胃が痛くなったり、腹痛が出る方は非常に多いです。そんな時に必要なことは胃薬や痛み止めではなく、話を聞いて気持ちに共感したり、おなかに触れたり、さすってあげること。実は、それだけでよくなる方は非常に多い(もちろん重病が隠れていることもありますから、症状が悪ければ受診は必要です)。少なくとも私たちが生きている間は、人間だけが肉体的、精神的な支援の両立ができると思います。
これから現場で働く方、現在現場で悩んでおられる方に伝えたいことは、大規模なデータからみた正解と、目の前のあなたが携わっている患者様にとっての正解は、いつも一致するわけではないということです。患者様の病気や状態に関心を持つ、それだけではなく、その方の人生やこだわり、心からの望みを知ろうとすることが医療では大切だと考えます。それを知ることで初めて私たちが関わる患者様の夢や希望をかたちにすることができるでしょう。
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