――あなたのお仕事について具体的に教えてください。
服飾デザイナーです。15年前に要介護者向けのエプロンのメーカーとして起業しました。単なるエプロンではなく、上着を着ると普通の服のように見え、外食時などにも使えるのが大きな特徴です。また、高齢者施設の利用者がモデルとなってランウェイを歩くシニアファッションショーの企画・運営を2023年の春から手掛けています。
要介護者向けのエプロンを作ったことがきっかけ
――この仕事を始めたきっかけを教えてください。
小さい頃から絵を描くのが好きでしたが、デザイナーという仕事を意識したのは、一条ゆかりさんの漫画「デザイナー」を読んだことです。両親も「何か手に職を付けた方がいい」という考えでしたので、高校卒業後はデザイナーの専門学校に通いました。学校は結局2年で中退してしまうのですが、アルバイトをしながらデザインを勉強し、デザイナーとして就職できました。出産のために退職した後も個人あてに仕事の依頼が来ることがありましたので、フリーの形で活動を始めました。
また、要介護者向けのエプロンを作ったことがきっかけで介護業界と縁ができ、いくつかの高齢者施設でエプロンなどのファッションショーを手掛けるようになりました。そうした活動の中で、2016年に同じような活動を事業として行っているフクシルという会社と知り合い、以後は、フクシルが開催するショーの衣装の製作・手配を一手に引き受けました。フクシルの社長が新たに別の事業を始めることになったため、企画・運営の部分についても当社で担当することになりました。
ウイークポイントをカバーするようなデザインが得意
――あなたの強みは何ですか?
デザイナーとしては、基本的にそれぞれのウイークポイントをカバーするようなデザインが得意です。例えば「要介護で歩けない」「片麻痺」「病気で体形が変わってしまっている」など、着る人の身体の状態などに合わせて、着脱が楽なのは勿論、どのように美しさを引き出すかにこだわっています。これまでに400人以上の高齢・障がいのモデルさんと向き合ってきました。
性格の面でいうと、人が好きなのでコミュニケーション能力は高い方だと思います。会社員時代は、展示会では営業スタッフよりも多くお客さんと会話していました。デザイナーなどのクリエイター職は、気難しい、寡黙な人が多いというイメージが強い中で、社交的な性格は名前や顔を覚えてもらうのに非常に役に立ったと思っています。
ショーを通じて介護で悩む人を減らしたい
――あなたの使命とは何ですか?
私自身が仕事をしながら母親の介護をずっと続けてきましたし、仕事を通じて多くの介護事業所・介護関係者と知り合いました。そこで得た経験やノウハウ、知識を今の仕事を通じて社会に還元していくことです。
例えば、新たに引き継いだファッションショーは、地域の人たちが高齢者施設に足を運び、介護職の人たちと接するきっかけになると思います。一般の人たちは「ここに高齢者施設がある」ことは知っていても、そこでどのようなサービスが行われているのか、どのような専門的な知識や技術を持った人が働いているのか、介護に直面しない限り知りえることはないと思います。ショーを通じて地域の介護情報を自然と知る機会を作り、家族の介護で悩む人などを少しでも減らしたいと思っています。
ファッションショーは、これからは3ヶ月に2回ぐらいのペースで開催する計画ですが、その際には福祉用具メーカーなどと連携して、様々な機器の展示などもある、介護について学べるミニイベントとして実施できたら考えています。
企画・運営を任せられる若い仲間を全国にたくさん作りたい
――あなたのこれからの夢を聞かせてください。
ファッションショーを全国で開催したいと考えていますが、私の身体は一つしかありませんし、年齢の問題もあります。今はスポットで手伝ってくれる人はいますが、恒常的に開催していくための組織が必要です。今後10年程度かけて、企画・運営を任せられる若い仲間を全国にたくさん作ることが夢です。それができたら、私自身はその人たちのアドバイザーをしながら、全国を旅するセミリタイア生活を送りたいと思います。
もう一つは、親の介護に直面しているケースが多い50~60代の女性を対象にしたファッションブランドの確立です。現在、大手アパレルと話を進めている最中なのですが、1日でも早く実現したいと思っています。
仕事の中に一つでも「心躍るワクワクポイント」を見つけることが大切
――最後に、夢や目標に向かって新たな一歩を踏み出そうとしている方へ、メッセージをお願いします。
よく「趣味などの『好きなこと』を仕事にしてはいけない」という人がいますが、私は仕事の中に「好き」があることがとても大切だと思います。好きなことであれば、多少仕事でキツイことがあっても乗り越えられますし、好きなことであれば実力以上の成果が出ることもあります。仕事選びに際しては、まず「自分は何が好きなのか」をしっかりと見極めた上で「できること」ではなく「好きなこと」をやるようにしましょう。給与など目先の待遇などにつられて好きでもない仕事をしても、結局は長続きしません。
そして、好きなことは別に仕事内容に限ったことではありません。「働いている街が好き」「職場の近くにある飲食店がおいしくて好き」「制服がかわいくて好き」「社内に好きな人がいる」など何でもいいのです。とにかく仕事の中に一つでも「心躍るワクワクポイント」を見つけることが大切と思います。