—あなたのお仕事について具体的に教えてください。
書道家です。現在の活動は、「書道教室の運営」「依頼を受けての書道作品の制作」「イベント会場などでの書道パフォーマンス」の3つです。

書道教室は関西各地で手がけており、現在は約50人に指導をしています。「書道作品制作」は、アーティスト「ケツメイシ」さんのロゴや、テレビ番組「生前葬TV 又吉直樹の生前葬のすゝめ」のタイトルロゴ、「東京五輪選考会 柔道グランドスラム大阪」のロゴなどをはじめ、飲食店の看板など数多くを手がけてきました。書道パフォーマンスは企業の式典や競馬場でのイベントなど、新型コロナウイルスが広がる前は1年間で30回程度を行なっていました。
三味線やウォーターライトグラフティとのコラボレーションなど、これまでの書道の枠にこだわらない新しいスタイルのパフォーマンスにも積極的に取り組んでいます。また、日本国内だけでなく、パリのルーブル美術館やニューヨーク、タイ、マレーシアなど海外6カ国でも活動実績があります。
—この仕事を始めたきっかけを教えてください。
書道を始めたのは7歳のときです。はっきりとした理由は自分でもわからないのですが、近所の書道教室に通いたい、と私から両親に言い出しました。8歳のときにその教室が加盟する書道団体の展覧会で優秀賞を受賞、10歳のときには特選に選ばれるなどして、どんどん書道が好きになっていきました。22歳のときに師範となっています。
書道を続ける一方で、小学校から高校まではバスケットボールに打ち込んでいました。高校のバスケットボール部は練習時間も長く、書道教室に通う時間がとれなくなってしまいましたが、選択授業で書道を学びました。その時の担当の先生が「お手本を上手に真似ようと思うのではなく、自分の感性で好きなように書いていいから」と指導してくれました。そこで、創作書道作品を提出したところ、それが展覧会で入選したのです。その展覧会を訪れた人たちから「感動しました」などの手紙をもらいました。そのときに「自分の字ひとつで人を感動させることができる」という書道の魅力を実感し「自分の一生の仕事にしよう」と決心しました。
22歳のときに書道教室を始め、23歳のときにフリーランスの書道パフォーマーとしての活動を開始しました。当初は書道1本で食べていくのはなかなか難しく、アルバイトをしながらの活動でしたが、口コミなどで徐々に仕事が増え、2年目から書道専業でやって行けるようになりました。
—あなたの強みは何ですか?
書道パフォーマンスでは、具体的に何を書くかを即興で決めることも多くあります。そのためには主催者や参加者がどのようなものを求め、どのような作品であればその期待に応えられるのかを、その場の雰囲気なども考えながら、即時に判断しなくてはなりません。そうした経験を積んできたこともあり、どのような依頼に対しても、依頼主が私に対して求めているものを即座に、しっかりと把握し、期待している水準以上の作品を提供できるという自負があります。
また、書道家というと「年配の人」というイメージが世間で強いこともあり、若い世代の女性であることが、親しみやすさや安心感などに繋がっている面があると思います。線の細い女性がパフォーマンスでは大きく力強い文字を書く、という意外性も興味を持ってもらえるポイントです。

—あなたの使命とは何ですか?
一人でも多くの人、特に子供たちに書道の楽しさ、面白さを伝えることです。今は、書道の授業がない、冬休みに書初めの宿題を出さない、という小学校もあります。そうした子どもたちは、筆で字を書くという経験を一生することがないかもしれません。しかし、書道は紙と筆さえあれば、いつでもどこでも楽しめます。年齢も性別も問いません。そして初心者でもすぐに自分の個性を出すことができる、最も気軽に取り組める創作活動と言えます。子どもの頃に書道に触れる機会がないということは、感性を磨いたり、自己表現をしたりするチャンスを損ねていることでもあり、とても残念に思っています。
私は、自分の作品や創作の様子をInstagramやFacebookなどにアップしていますが、それらを見た若い人から「今まで書道には全く触れたことがありませんでしたが、とても興味を持ちました」というメッセージをたくさん受け取ります。こうしたことがきっかけで1人でも多くの人が書道に関心を持ってくれたら嬉しいですし、書道の経験がきっかけで創作活動自体に興味を持ち、芸術家やアーティスト、クリエイターなどを目指す人が出て来てくれればと思います。
海外への書道の普及も私の使命と考えています。海外では日本文化に対する関心・憧れが強いですし、漢字は「格好いい」というイメージを持たれています。趣味や芸術の一つとして書道が好まれる下地は十分にあると思います。パリでパフォーマンスを行ったときには、観客がライブ会場のようにノリがよく、日本とは大きく違っていたことが非常に印象的でした。筆1本あれば言葉が通じなくても心が通じ合うことを実感しました。
—最後にあなたのこれからの夢を聞かせてください。
「パリに行ったらルーブル美術館」のように、国内外の観光客が必ず足を運ぶような書道の美術館を日本国内に作るのが夢です。様々な書道作品はもとより、筆、硯、墨、和紙など書道に係わる様々な道具も展示して、書道文化を世界中に発信する一大拠点とします。筆や和紙などは日本の貴重な伝統工芸ですが、近年は中国産など安価な外国製品に押されて、職人の数も減ってしまっています。それらの貴重な技を維持し、次世代に繋げることが私たち課せられた義務と考えています。まだ、何も具体化はしていませんが、今後20年以内には開設する目標を立てています。