〈ナースの本音〉ICU(集中治療室)で働く看護師の経験談
2021/08/03
最終更新日:2021/08/03
今日から3回に渡り、様々な環境で勤務する「看護師さんの本音」をご紹介してまいります。
初回は現役で看護師さんとして活躍している裕子さん(仮名)に、ご自身の経験を語っていただきました。
あれは私がICU(集中治療室)勤務に就いて3年目の夏でした。
ここで出会う患者様のほとんどが人工呼吸器に繋がれていて意識はなく、命が救われるか否かのとても緊迫した日々でした。
そんな毎日を過ごす中、私はひとりの意識清明な患者様の担当になりました。
とても穏やかで優しそうな70代の男性。病名は肺癌末期、余命4ヶ月。
肺炎を併発し呼吸状態が悪化することが予想されたため、集中治療を受けるために一般病棟からICUに移動してきたのでした。
私はまず患者様の背景や家族構成を知るためにお話しを伺いました。普段は患者様が会話ができないためご家族から話を聞きますが、今回は本人から話を聞くことができました。
「余命4ヶ月をギリギリまで家族と過ごしたい。今回の肺炎で余命を短くするわけにはいかない。」そんな想いで集中治療を希望し、ICUに来たことを知りました。
しかし、その1週間後この世を去ったのです。
転棟後すぐに呼吸を補助する機械の装着が必要となり筆談となりました。
そこで私は特に何をしたわけでもなく、たくさんお話しを聴かせていただいただけだったのですが、筆談で奥さんに「あの看護師さん、とても良くしてくれる」と伝えていて、ご家族との信頼関係を築くことができました。
その後機械だけでは呼吸が保てず、すぐに挿管。癌に蝕まれていた肺は破れ、片肺の気胸を併発。胸に穴を開けドレーンチューブを挿入することに。
筆談で「もう頑張った。あとは任せた。」と家族に判断を委ねました。
“家族のために選んだ集中治療。家族がこれで良かったと後悔しないこと“
それが患者様本人の希望でした。
「とても苦しそうで見ていられない。」
家族の意向で意思疎通ができなくなることを理解した上で、鎮静剤投与を開始。さらにもう片肺の気胸を併発。
医師は「集中治療を受けに来たのだから」と当たり前にまたドレーンチューブを挿入する方針だった。
私は…
疑問でした。
この状態からいくら治療したところで回復するわけがない。
死と向き合うこの仕事は時に酷です。
テレビドラマとは違い、希望を信じる続けることよりも、諦めることを優先しなければならないケースの方が多い。
ご家族もまた、辛そうな呼吸をしている患者様本人を目の前に、さらにまた胸に穴を空けてドレーンチューブを挿入する痛みを伴わせるか。と治療への同意に戸惑っていました。
そして私は、ご家族に呼ばれました。
「看護師さんのお父さんだったとしたら、どうしますか?」
医療者として、個人的な意見を答えてはいけない。
選択肢を与え、起こり得る可能性を示し、選んでもらうだけの関わりが正解だ。
同じ質問をされた主任看護師は、当然そのように対応していました。
正解は分かっていました。分かっていたけど、答えてしまった。
「私が自分の家族だったとしたら、これ以上の治療はしません。」
うつむく私に、
「あなたならちゃんと答えてくれると思った。背中を押してほしかったの。もう頑張ってくれた。苦痛を取ってもらうことはできる?」
積極的な治療はそこで中止となり、苦痛を取るため麻薬を投与することとなりました。
痛みがとれ、安らかな表情になっていくとともに、心拍も血圧も落ちてきました。
予知してしまった。
あろうことか私はご家族より先に泣いてしまったのです。
今まで患者様の最期の時に、泣くことなんてありませんでした。
会話も出来なかった患者様には感情移入しないでいれたから。
ご家族はまだ状況を理解していない。
それなのに、私は泣いてしまった。
先輩が私に気付き、担当を外されました。
そして私は、彼が息を引き取るその瞬間に立ち会えませんでした。
せめて、と懇願し、自分の勤務する夜勤が終わっているにも関わらず、ご家族と一緒にエンゼルケアをさせていただきました。
そこは、ご家族から患者様への感謝と愛の言葉に溢れた素晴らしい時間でした。
「あなたの家族にも同じ医療・看護を提供しますか?」
患者様に対する在り方に迷ったとき、私はいつもここに立ち返ります。
ご協力いただきました裕子さん、ありがとうございました。
ひとくちに”看護師さん”と言っても様々な環境がありますね。
裕子さんはICUの看護師として働く中で、いつもと違う患者様とそのご家族に出会い、見つけた、患者様に対しての自分の在り方をお話してくださいました。
医療・福祉に携わる人にとっては日常のことだとしても、患者様、ご家族の方にとってはほとんどの場合が一生に一度のことであり、悩むことや心細いこともたくさんあるはずです。
患者様にもご家族様にも寄り添って最期の瞬間までをケアしてくださったこと。
患者様もご家族様も、幸せだったことだと思います。
「治療をする」
それだけではない看護師さんのお仕事、考えさせられる「本音」を語ってくださいました。
医療・福祉に携わるかたはもちろん、他の業種で活躍されている方にも、「立ち返るところ」があるのではないでしょうか?
普段、聞ける機会のない貴重な看護師さんの本音を伺うことができ、嬉しく思います。
裕子さん、本当にありがとうございました。
読者の皆様の感想や体験談等、よろしければコメント欄より教えてくださいね。