〈ナースの本音〉緩和ケア病棟勤務の看護師の経験談
2021/08/03
最終更新日:2021/08/03
〜看護師さんの本音〜今回は緩和ケア病棟で働く現役看護師の佳奈さん(30代 仮名)に、印象深い出来事を語っていただきました。
「外出させたいので『明日』付き添ってもらえないでしょうか?」
緩和ケア病棟に入院中のお母様を、最後に家に帰らせてあげたいという息子様から、急な依頼がありました。
訳を聞くと
「昨日、抗がん剤を中止して予後1週間と宣告された。このタイミングを逃すと、もう母の希望を実現させてあげられないのだろう」
とのことでした。
私はすぐ、明日の予定を調整し、付き添いに行くことができました。
病院に迎えに行き外出の準備をしていると、患者様は落ち着きがなく、私に筆談で「はやく」と訴えてきました。
車椅子で介護タクシーに乗りこみ、ご自宅へ。
紅葉が彩る高い青空。
1年ぶりに見た窓枠のない外の景色を、彼女はゆっくり見ることは出来たのでしょうか。
私の手を握る、冷たい手の感触は今でも鮮明に思い出されます。
家に着くと、ご家族が外まで出迎えてくれていて、ご家族の温もりが感じられました。
それからわずかな時間ですがソファーに座り、ご家族の顔を見て、お茶を飲んで、患者様の顔から緊張が消えていくのが見えました。
彼女を支えながら歩いてトイレまで行く途中、突然彼女は足の力が抜け、その場に座り込んでしまいました。
あれ?おかしい。
目が上転し、声をかけても反応がない。
反射もない。
脈も触れにくい。
呼吸はかろうじて・・
ご自宅に帰ってきてまだ30分。
私は「そんな。せっかく家に帰って来れたのに。このまま病院に戻るなんてさせたくない!」と咄嗟に思いました。
本人や家族に不安を与えないよう冷静に、冷静に。
できる限りの対応をして様子を見ていると、意識が戻ってきてくれました。
それから家族写真を撮影し、アルバムを見返し、「遺影の写真はこれにしてほしい」とご家族に頼んでいました。
孫と触れ合い、孫の飲んでいたジュースをもらって。
ぶどうの果汁を吸って。
病棟では見ることのないとても幸せそうな表情をみることができました。
ですが、患者様の不安が冷や汗となって溢れてくるようにぽたぽたと流れ、ずっと手は冷たいまま。
少しでも家族といたいはずですが、病院へ戻る予定時刻を待たず
「もう病院に戻りたい。心配。」
と筆談で訴えて来られました。
「まだ?」「まだ?」と介護タクシーを待ちきれず落ち着かない様子でした。
帰りは車椅子に乗れずストレッチャーで帰るくらいに、体力は消耗していたのでした。
車内でも冷や汗で冷たくなった手で私の手を握り、何度も何度も「間に合う?」と聞いてくるのです。
不安そうなその表情に対して、安心を与えたくて、「間に合いますよ」と何度でも返しました。
何に対して間に合うかと問われているのかわかりませんでしたが、もしかしたら…?とわたしの頭にも不安が頭をよぎりました。
病院に着くと、ほっとした表情で
「本当にありがとう」と細くて冷たい身体で抱擁してくれました。
翌朝、息子様から
「母が亡くなりました。最後に家に帰らせてあげることができて本当に良かったです。」
と、知らせがあり、私の頭によぎった不安が的中してしまっていたことを知りました。
本当は患者様に言ってあげたかった言葉があります。
「また家に帰って来れると良いですね。」
『また』が当たり前ではなく生きている患者様を目の前にして、いまこの瞬間をどれだけ大切に生きることが出来るだろうと考えさせられます。
緩和ケア病棟で勤務し、私たちにとて当たり前の「明日」を迎えられるかわからな患者様のケアをされている佳奈さん。
お忙しい中お話をお聞かせいただきありがとうございました。
緩和ケア病棟は人生の最期に寄り添う場所だと思います。
患者様はさいごに佳奈さんに「自宅に帰る」という願いを叶えてもらい、とても嬉しかったのではないでしょうか。
日々の生活の中で慌ただしくしていると、「明日」がくることを当たり前に感じてしまいますが、今一度立ち止まって、「明日」や「また今度」と言えることの素晴らしさを感じ、今この瞬間を大切に生きていきたいですね。
わたしも、感謝の気持ちを言葉に出したり、伝えたいことはすぐに伝える、今を大切に生きることを改めて意識していこうと思いました。
皆さんには、日々大切にしていることってありますか?
よろしければコメント欄より教えてください^^